風呂キャンセル界隈も肯定の言葉『生きる言葉』俵万智

「稀代の歌人」という触れ込みに惹かれた。言葉を繰る人がどのように言葉について語るのか。筆者の周辺に巻き起こる暮らしや育児を通した、現代の言葉の観察日記、時事評論である。とはいえ「サラダ記念日」以外の作品や著作を知らず、読みながらプロフィールを知る。序盤、息子さんの育児に関する部分では、途中何を読んでいるのか不思議な気分...

世界を変革する文学部ってカッコいい『「感想文」から「文学批評」へ: 高校・大学から始める批評入門』小林真大

はじめに ブログ等で批評文のようなものを書くにあたり参考書として読んだ。文学批評というものの型とその趨勢、批評の意義がまとめられた入門書。文学批評の歴史はまるで繰り返される抗争のような物語に感じられた。今後作品の批評を読み書きする際にどの観点なのか考えていきたい。また、最も興味深かったのは終章の批評の存在意義だ。文芸批...

『チ。―地球の運動について―』魚豊

15世紀前期のP王国というヨーロッパ風の国。架空の宗教C教が権威を持ち、宇宙の中心が地球である天動説を公認の学説とする。神の力を示す天動説に対して地動説は異端の教え。秩序を乱すものは処罰の対象であり、異端者はときに極刑にもなる。天文学の研究に高いリスクが伴うという舞台設定だが、史実では地動説を語るだけで火刑までにはなら...

『私たちが光と想うすべて』パヤル・カパーリヤー

薄暗い夜の街、路上販売や駅の雑踏、インド・ムンバイで暮らす人々のナレーションから始まる。電車で通勤するプラバはムンバイの病院に勤める看護師。仕事でドイツに行った夫から1年以上連絡がない。同居中のアヌは職場の後輩。アヌはヒンドゥー教徒だが、ムスリムの彼氏がいて職場で噂になっている。病院の食堂で働くパルヴァティは夫を亡くし...

『ババヤガの夜』王谷晶

(ネタバレを含みますのでお気をつけください。)英国ダガー賞を日本人で初受賞というニュースをきっかけに読んだ。作者の王谷晶さんのお名前も知らず、名前の読み方や性別も知らなかった。とはいえ、名前の読み方や性別がわかったからなんだというのか。 書評とネタバレについて、そもそもここに文章を書き連ねる理由まであれこれ考えさせられ...

『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』黒川智之

物語は、ある日突如として異星から巨大な宇宙船が地球の空に現れるところから始まる。だが、その宇宙船との接触や交信は一切ない。ただそこに「あるだけ」の存在は、最初こそ異様だったものの、次第に人々に受け入れられ、やがては日常の一部となる。この“非日常が日常となった世界”で生きる少年少女たちの生活は、その平凡さゆえにかえって普...

『あのこは貴族』岨手由貴子

ビルがひしめく東京の夜、タクシーが走る。その後部座席に座る華子。向かうのはホテルで催される家族の新年会。母親から華子への話題は結婚の催促や次のお見合いの話ばかり。27歳の華子の未来に結婚以外の選択肢は無いし、本人もそう信じている。伴侶探しに奔走する華子は、良家の子息である幸一郎とお見合いし、この人ならと高揚する。

『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』三宅香帆

「趣味は読書です。でも最近、仕事が忙しくて読めていない…」そんな思いを抱える多くの人を惹きつけ共感を呼びそうなタイトル。 筆者は、企業に就職した後、大好きだった読書ができなくなったと振り返る。作中では映画『花束みたいな恋をした』の登場人物になぞらえ、忙しい日々の中で読書よりもスマホでSNSやゲームに時間を費やしてしま...

『敵』吉田大八

一軒の日本家屋──そんな静かなショットから始まる。家主・渡辺儀助は、元大学教授の一人暮らし。朝起きて顔を洗い、身支度を整え、米を研ぎ、魚を焼き、ひとり黙々と食事を済ませる。食器を洗い、コーヒー豆を挽き、買い物へ。衣・食・住に至るまで、70歳を超えたとは思えない“キチンとした”暮らしぶりだ。