ビルがひしめく東京の夜、タクシーが走る。その後部座席に座る華子。向かうのはホテルで催される家族の新年会。母親から華子への話題は結婚の催促や次のお見合いの話ばかり。27歳の華子の未来に結婚以外の選択肢は無いし、本人もそう信じている。伴侶探しに奔走する華子は、良家の子息である幸一郎とお見合いし、この人ならと高揚する。二人の会話に上る映画『オズの魔法使い』は、少女ドロシーが魔法の国を冒険し、最後にはカンザスの家へ帰る物語だ。どこかにあるはずの結婚や幸せを探しさまよう華子の姿は、まるで魔法の国をさまようドロシーのようである。蛇足だが、華子の最初期のお見合い相手、急にスマホで写真を撮り出す男。彼にも幸あれと願わずにはいられない。
青木を介して、華子は美紀と出会う。富山出身の美紀は猛勉強の末、慶應大学に合格するが、実家の経済的な理由から中退し、そのまま東京で働き始める。正月の実家や高校の同窓会からは、地方の閉塞感が漂っている。美紀はその壁を破ろうと、東京で懸命に生きているのだ。東京と地方で環境は違えど、その閉塞感には共通するものがあり、華子はそんな美紀に共鳴していく。
インドではカースト制度が根強く残っており、カーストを超えた結婚は難しい。お見合い結婚と恋愛結婚では、依然9割がお見合いとか。これはカースト=階級の純粋性の保持や、階級社会の秩序を守るためという理由があるそうだ。日本では恋愛結婚が主流のように見えるが、カーストほど顕在化していないだけで、階級の存在は確かにある。また、作中度々出るおひなさまは娘の幸せな結婚を祈る行事であるが、親としては暗黙に理想の幸せ=結婚を定める。誰かに定められ結婚。飾られた雛人形のお内裏様のように、毛布で包まれた華子と幸一郎の二人が印象的だ。
冒頭から華子の主な移動手段はタクシーであり、歩く姿はどこであれ誰かのエスコートが付く。しかし東京の街を軽やかに自転車で疾走する美紀との出会いを経て、華子は変化し始める。虚ろな眼差しだが、しかししっかりと自分の意思で足でひとりで街を歩き始める。